VESICA PISCIS MAGAZINE
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BEST OF

VESICA PISCIS MAGAZINE BEST OF 2020

―パンデミックと人種差別やマイノリティの権利を巡る多くの問題に直面した激動の2020年

音楽史において20年代のスタートとなる区切りの年でもある2020年は世界規模のパンデミックにより別の意味で大きな意味を持つ年となった。
COVID-19は多くの被害者を出しただけでは無く世界中の経済とカルチャーを停滞させ、Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)など人種差別やマイノリティの権利を巡る問題にも注目が集まる混沌の1年となった。
図らずも時代の転換期となってしまった激動の2020年だが、多くのバンドやシンガーたちは、これをただ悲観的に考え傍観するだけではなかった。この困難を乗り越えてリリースされた数多くの作品には前へ前へと進むタフな生命力とより良い社会を作りたいと言う強い意志が宿っている。
これらが今後のカルチャーへ与える影響は計り知れないだろう。

VESICA PISCIS MAGAZINEがセレクトした2020年のプレイリストをもとに、シューゲイズ、ドリームポップ、インディポップ、ポストパンクなど2020年のインディペンデント・シーンを振り返りながら、アルバム、シングル、EPの分類なくピックアップした作品を紹介していく。

VESICA PISCIS MAGAZINE BEST OF 2020

Kevin Krauter // Full Hand

米ブルーミントンのインディーポップ・バンドHoops (フープス) のメンバーとしても知られるKevin Krauter(ケビン・クラウター)のソロ・アルバム。フォーキー、ローファイ、ドリームポップと三拍子揃った今作のヒットにより2015年にリリースされたWinspearがカセットで再発されるなど今年のインディーシーンを大いに賑わした。Captured TracksのマネージャーKatie GarciaとBeach FossilsのDustin Payseurが設立したレーベルBayonet Recordsからリリース。

Kelly Lee Owens // Inner Song

ウェールズ(現在はサウス・ロンドン在住)のソングライター、プロデューサーであるKelly Lee Owens (ケリー・リー・オーウェンス)待望のセカンドアルバム。電子音で構築されたサウンドは近年まで”電子音”と言う制限だけでドリームポップには分類されなかったが、アート的な感性では素晴らしいものであれば目指すところは同じであり、一見異なる2つのシーンには共有出来るものがあるとして垣根は無くなっている。Velvet UndergroundのJohn Caleとの共作も収録されている21年のリリースにして、既に20年代ベスト入り確定と名高い傑作。

Momma // Two of Me

Sorryに対するLAからの回答とも言うべきオルタナティブロック・バンドMommaのセカンドアルバム。2020年のベストを挙げるのであればこのアルバムはどの角度からも外すわけにはいかないだろう。Etta Friedman (エッタ・フリードマン) と Allegra Weingarten (アレグラ・ワインガルテン) が高校で出会い2人で曲を書き始めるところからスタートしたMommaは、2018年にFrench VanillaやRed Ribbonなど新進気鋭のアーティストを輩出しているDanger Collective Recordsとサインしファーストアルバム『Interloper』をリリース。続く2作目となる本作で既に新人の域を超えたアーティストとしてその存在感をシーンに示している。

Choir Boy // Gathering Swans

Dais Recordsへ移籍し、Cold Cave、Snail Mail、Ceremonyらのとのツアーを経過して完成した2ndアルバムである。前作とはまた別のベクトル、別の解釈でのChoir Boy流インディ・ポップ、ドリーム・ポップを確立。そしてロックダウンの真っただ中にリリースされたにも関わらず、その破壊力は凄まじかった。この1枚で瞬く間にインディーポップ界の寵児となった彼らなのだが、ひたすらマイペースで職人気質なところも憎めない。

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Tame Impala // The Slow Rush

Kevin Parker率いるオーストラリアのサイケデリック・ロック・バンドTame Impalaの4thアルバム。数多くのアワードへノミネートされ名実ともにワールド・クラスのトップアーティストとなったTame Impalaが目指す次なる場所は…そんな問いに答えるように『Currents』から5年の月日を経てリリースされた『The Slow Rush』は「時間の流れ」がテーマとなっている。しかし時の砂に埋もれた部屋には彼はもう居ない。過去、現在、未来の概念から時離れたTame Impalaは既にサイケデリック・リバイバルやオマージュを超えて新時代のオリジナルとなったのだ。

Holy Fawn //The Black Moon

アリゾナ州のポストロック・バンドHoly FawnによるEP。2016年にリリースされらEP『Realms』以降、じわりじわりとその実力を評価へと転換し満を持してリリースされたLP『Death Spells』でブレイク。新作ではよりシューゲイズ、
ブラックメタルのエレメントを取り入れ、スケールを広げた。前作のファンからは賛否両論あるがHoly Fawnはあらゆる制約を取り払い、新たなアートの領域へと進んだ事は間違いないだろう。

Soccer Mommy // Color Theory

あまりに多くの出来事が起きた2020年だが、2月28日にリリースされた本作を忘れてはいないだろうか?2月の時点では2020年のベスト・オブ・ドリーム・ポップはSoccer Mommyで確定かと思われたが、蓋を開けてみればそう易々とは決める事が出来ない大豊作の年。それでも強いぞSoccer Mommy。今年一番聴いたアルバムと言う人も多いのではないだろうか。

Dehd // Flower of Devotion

DehdはベーシストのEmily Kempf、ギタリストのJason Balla、ドラマーのEric McGradyからなるイリノイ州シカゴのインディーロック・バンド。ローファイ、ガレージ、インディポップが交差する絶妙な立ち位置をキープしつつ満を持してシーンに放った名作アルバム。各所で予想通りの高評価を獲得している。Pure X、DeeperCorey Floodなどを擁するインディ・ファンには説明不要のブルックリンのレーベル、Fire Talkからのリリース。

Miserable //Damned to Love You

カリフォルニア、オークランドのシンガーソングライターKristina Esfandiari(クリスティーナ・エスファンディアリ)によるダーク・ドリームポップ・プロジェクト。KristinaはWhirrの初代ボーカリスト、またKing Womanとして知られているが、2018年にSargent Houseからリリースされた『Loverboy / Dog Days』でMiserableとしても偉大な功績をシーンに刻んだ。そんなMiserableが2年ぶりのリリースとなるシングル『Damned to Love You』を2020年の2月にリリース。エモーショナルで浮遊感に満ちたこの曲はインディ・シーンで大きな注目を集めた。

Ellis // Born Again

2018年にリリースされたEP『the fuzz』から注目を集めていたオンタリオ州ハミルトンのシンガーソングライターLinnea SiggelkowことEllisが満を持してリリースしたデビューアルバム『Born Again』。間違い無く2020年ドリーム・ポップのベスト3にランクインし、インディ・シーン全体でも上位に位置する重要作品となるだろう。

Peel Dream Magazine // Agitprop Alterna

ニューヨークのミュージシャンJoe StevensのプロジェクトとしてスタートしたバンドPeel Dream Magazineのセカンドアルバム。StereolabかMy Bloody Valentineかとシューゲイズ・シーンをざわつかせた『Agitprop Alterna』ではあったが、けして派手な話題とはならず、むしろ丁寧なパスワークで繋いで確実に決めた地味なゴール言った印象だった。しかし蓋を開けてみればこの1点は決勝ゴールとなっており結果的に2020年のベストへ軒並みランクする事になる。今後も語り継がれて行くであろうシューゲイズの名曲『Pill』を生み出した功績は大きい。

Dizzy // The Sun And Her Scorch

2020年も猛攻の手をゆるめないカナダ、ドリームポップ勢。しかし特筆すべきはそれぞれが別のベクトルで傑作をリリースしたと言う点だろう。Dizzyのセカンドアルバム『The Sun And Her Scorch』もその中の1つだ。2月に先行でリリースされた『Sunflower』は強烈なインパクトを残し、2020年ベスト・ドリームポップ・ソングの上位の座から微動だにしなかった。また、9月にはEllisのSaturn Returnedをリミックし、11月にはSylvan Esso、Talking Heads、The National、Brittany Spearsのカバーをリリースするなどパンデミックでツアーなどが出来ない状況の中でも勢力的な活動を見せた。

Black Haüs // Miss Thang

 
ノスタルジックでありながら爽快でポジティブなエネルギーに満ちたニューウェイブ・ソング『Removed』をシーンへ送り出したノースカロライナ州グリーンズボロを拠点に活動するBlack Haüsは2021年以降も忘れてはいけない存在になるだろう。音楽を愛するこの5人組は実に様々なスタイルのレーパートリーを持ち、その全てが最高だ。オルタナティブ・ロック、パンク、ニューウェーブからヒップホップ、R&Bまでを渡り歩けるのは彼らだけだろう。
 

Riki // Riki

デスロック/アナーコパンク・シーンでCrimson Scarletのメンバーとして活躍していたビジュアル・アーティストNiff Naworが2017年にスタートさせたプロジェクトRikiのデビューアルバム。Drab MajestyやXeno & Oaklanderが在籍するDais Recordsからのリリースと言う事もあり大きな注目を浴びたが、それを彼女自身の実力を以て評価へ転換した。パンク畑出身の彼女ならではのアート精神を十二分に感じる事が出来る名盤。

snarls // Burst

Stereogumの”Top 100 Songs”と”ベスト・ニューバンド”の名誉を早々に獲得したオハイオ州コロンバスのインディ・バンドSnarlsがついにデビュー・アルバム『Burst』をリリースした。先駆けてリリースされたシングル「Walk In The Woods」は間違いなく20年代ベストソングにノミネートされるだろう。90’~00’s シューゲイズ、エモの遺伝子を受け継いだ次世代ギターポップ・バンドとして今後の活躍に期待がかかる。

Pearly Drops // Call For Help

このアルバムを2020年のドリームポップ、シューゲイズのリストから外すものは居ないだろう。フィンランド、ヘルシンキを拠点とするSandraTervonenとJuusoMalinによるシンセポップ・デュオ、Pearly Dropsのデビューアルバム『Call For Help』。New Orderやその影響下にあるBlack Marbleなどを思わせるサウンド、あるいは『Kid A』以降のRadioheadの雰囲気にGrimes彷彿させるボーカルで瞬く間にシーンに知られる存在となった。ドリームポップからトラップビートまで様々な要素を1つの大きな幕のようなものが包み込んでいるアート作品であり、不思議な空気感を持ちながら、非常に完成度の高いアルバム。

BEST DREAM POP AND SHOEGAZE OF 2020―激動の年となった2020年。ツアーなどは延期、中止となったが、それでも多くのミュージシャンがリリースを続け、蓋を開けてみれば素晴らしい...