―激動の年となった2020年。ツアーなどは延期、中止となったが、それでも多くのミュージシャンがリリースを続け、蓋を開けてみれば素晴らしい作品が数多く生まれた大豊作の一年となった。
パンデミックによりフェスやツアーの中止が相次ぎ、流通や観客動員に関する制限などミュージシャンにとっては非常に厳しい状況となったが、サイケデリック、ベッドルーム・ポップ、ドリームポップ・シーンにおいては20年代の幕開けにふさわしくニューフェイスの良作に恵まれた1年でもあった。Slow Pulp、Kevin Krauter、Peel Dream Magazineのヒット、Choir Boyの大躍進、EllisやSoccer Mommyなど女性SSW勢のリリースも目を引いた。また22年ぶりの新作をドロップしたHumや、Clairecordsの全盛期を支えたシューゲイズ・バンドAiriel、The Brother Kite、Pia Frausなども健在のシューゲイズ・シーンは新旧入り乱れて大いに盛り上がった。
BEST ALBUM OF 2020
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Slow Pulp // Moveys
ウィスコンシン州出身、シカゴを拠点としているインディーロック・バンド Slow Pulp (スロー・パルプ) のデビューLP『Moveys』は名曲『Idaho』を生み出しただけではなくカナダ勢に押され気味だった2020年のUSインディ・ポップ、ドリームポップ・シーンの救世主となった。前作の時点ですでに今聴いても色褪せない先見性を持っているのだが、このアルバムはそれ以上に魔法に満ちた名盤である。
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Nothing // The Great Dismal
10年目にして不動の地位を築いたと言っても過言ではないNothingの新作『The Great Dismal』はパンデミックとロックダウンの混乱を乗り越え10月末にリリースされた。Domenic Palermoはパーソナルでヘビーなテーマを今作のコンセプトとしており、それを「フィラデルフィアの人間嫌いの物語」と表現した。Whirr、DeafheavenのベーシストNickBassettと創設時からのボーカリストでギタリストであるBrandon Settaがバンドを去り、JesusPieceのAaronHeardとCloakroomのDoyleMartinが新たに加入、そして再びWill Yipを迎えて制作された『The Great Dismal』はサウンド面の素晴らしさだけではなく、ミュージシャンとしてのアティテュード、様々な節目を象徴する傑作となった。
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Hum // Inlet
90年代に4枚のアルバムをリリースし、『Stars』を収録した代表作『You’d Prefer an Astronaut』で知られるHumが22年ぶりとなるスタジオアルバムをリリースした。2015年に本格的に再始動していた彼らだが、何よりも停止していた時間を微塵も感じさせない素晴らしい新作『Inlet』に誰もが驚いた。
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Motherhood // No Joy
現在 Jasamine White-Gluz のソロ・プロジェクトになっているNo Joyは2020年に素晴らしいアルバムを完成させた。2015年の『More Faithful』以来のフルレングスアルバムとなる『Motherhood』はAriel Pinkとのコラボレートなどで知られるJorge Elbrechtとの共同で制作され、初期からのNo Joyの方向性を逸脱する事なく我々の期待と想像を大きく超えた傑作となった。
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Happyness // Floatr
Benji Compstonが脱退。ドラムのAsh Kenaziがドラァグクイーンになり、Jon EE Allanと2人組になって帰ってきたロンドンのオルタナティブロック・バンドHappynessの3rdアルバム『Floatr』。見た目のインパクトとは裏腹に良い感じに力が抜けたギターロックと哀愁のメロディー。一度聴いたらなかなか離れられない超名曲「Vegetable」を2020年ベストソングに推薦しないわけにはいかないだろう。
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Penny Diving // Big Inhale
最初に『Big Inhale』は2020年のドリームポップにおいて最高のアルバムの1つであると断言しよう。じわじわとドリームポップ、シューゲイズ・シーンで人気を集めていたケベック州モントリオールの双子の姉妹を中心に結成されたPenny Divingは2020年についにデビューアルバムをリリースした。非常にシンプルではあるがオルタナティブ・ロックとドリームポップを自由に行き来する不思議なサウンドは確かなスキルもさることながら、高いポップセンスが要求される事は言うまでもない。
http://vesicapiscis369.com/interviews/1350/
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Narrow Head // 12th House Rock
シューゲイズ・ファンにとってはWestkustの米国でのリリース元、また昨年はTurnoverのヒットで知られるRun For Coverからのリリース。2020年のシューゲイズ・リストから彼らを外す者は皆無だろう。Nothingとはまたベクトルの違うゴリゴリの90’sオルタナ・サウンドでシューゲイズ・ファンの心を鷲掴みにした1枚。こちらもロックダウン真っただ中のリリースとなったが、20年代のベストとしても上位にランクイン間違い無しのアルバムである。
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White Poppy // Paradise Gardens
カナダ、リティッシュコロンビア州在住のシンガーソングライターCrystal Dorvalによるベッドルームポップ・プロジェクト。ニューエイジ・シューゲイズ・ボサノバ(new age shoegaze bossa nova)と言う曖昧ではあるが万華鏡のようなサイケ感とドリーミーなサウンドを融合させる事に成功している。LA Vampiresの名で知られるAmanda Brownと夫のBritt Brownが運営するレーベルNot Not Funからのリリース。
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Ousel // Ousel
2020年シューゲイズ/ドリームポップ・シーンの”Rookie of the Year Award”はブラジルのドリームポップ・バンドOuselだろう。昨今のシューゲイズ・シーンにおいては直球勝負とも言える、深いリバーブと透き通ったギターサウンド、それに溶け込む哀愁を帯びたメロディと伸びやかな美しい歌声で多くのファンを獲得した。
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Death Of Heather // Death Of Heather
タイ、バンコクのドリーム・ポップ/シューゲイズ・シーンは現在2010~2013年あたりのCaptured Tracksのアーティストから影響を受けた若い世代が台頭して来ている。アジアでも多くのドリームポップ・バンドを輩出しているインドネシア、シンガポールと並びアジアのインディ・シーンに新しい風を吹き込むタイのエース、Death Of Heatherの登場は2020年の注目すべきトピックのひとつだろう。
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BEST SINGLE AND EP OF 2020
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Fragile Animals // Only Until It’s Over
EP『Light That Fades』で2017年にデビューしたオーストラリア、ブリスベンのトリオ。今年リリースされたシングル『Only Until It’s Over』は多くのシューゲイズ・ファンに驚きと称賛で迎えられた。キャッチーなメロディ、絶妙なビート、浮遊感のあるギターサウンド、全てが完璧。間違いなく2020年ベスト・シューゲイズ・ソング筆頭である。
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Cuesta Loeb // Cuesta Loeb
世界的に有名なジャズ・ギタリストChuck Loebとスペイン・マドリード生まれのシンガーCarmen Cuestaの間に生まれたChristina Cuesta Loeb(クリスティーナ・クエスタ・ローブ)は2016年後半から、ニューヨークからロサンゼルスへ拠点を移し、ギタリスト、プロデューサーであるBlake Strausと共にシューゲイズ、ドリームポップのプロジェクトCuesta Loebとして活動している。クラシック・ミュージックの世界から飛び出した彼女だったが、そのバックグラウンドは明らかにシューゲイズ・シーンにおいて群を抜く輝きを放つ結果となっている。EP『Grass It Grows』収録の「Immerse Inverse」は2020年ベスト・シューゲイズに挙げて異論を唱える者は居ないだろう。
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Day Wave // Crush
カリフォルニアのプロデューサー/シンガーソングライター Jackson Phillips (ジャクソン・フィリップス) によるプロジェクト Day Wave待望の新作EP。2017年の『The Days We Had』から様々な仕事を手掛けている彼だが、久々のリリースとなった本作はさらなる躍進を予感させるのには十分なものだった。
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Fawns of Love //Someday (Robin Guthrie Version)
2020年も勢いが止まらないシューゲイズ、ドリームポップに親和性をもつダークウェイブ/ポストパンク勢の中からUSモダン・ゴスの注目株Fawns of Loveが、Cocteau Twinsでの活躍で知られるRobin Guthrieとの共作をリリース。このシングルは2019年リリースのLP『Permanent』収録の「Someday」をRobin Guthrie自身が再ミックスした新バージョンとなっており、原曲のアナザーサイド・ストーリーとも言える幻想的で白日夢のような奥行きのあるドラマチックなサウンドに仕上がっている。
http://vesicapiscis369.com/interviews/1452/
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Luby Sparks // Birthday
2018年のデビューアルバムから着実なステップアップを続けているLuby Sparks。今では次世代ドリームポップ、シューゲイズ・シーンにおいて肩を並べるバンドは皆無の実力と実績を備えたバンドへと成長した。昨年はYuckのMax Bloomをミックス、Sufjan Stevensやbeach fossils、Mac DeMarcoなどを手掛けたブルックリンのトップエンジニアJosh Bonatiをマスタリングに起用したシングル「Somewhere」のリリースに加えて、Robin Guthrieのリミックスによる「Somewhere (Robin Guthrie Remix)」をリリースした。そんな彼らの2020年のリリースは残念ながら1曲のみに留まったが、Björkが在籍したThe Sugarcubesの名曲「Birthday」をカバーし大きなインパクトを残した。
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SASAMI // Mess
ロサンゼルスを拠点に活動するするSasami AshworthによるプロジェクトSASAMIの2020年はデビューアルバム同様Dominoからリリースされたシングル「Mess」のみ止まった。こちらは彼女の意志により視覚的なイメージを持たず、ただ聴いて欲しいと言うコンセプトからシンプルなアートワーク、ビデオも作られずリリックのみの映像で共有された。2019年の最後に公開された3トラックのシングル『lil drmr bb』の延長線上にあるような生々しさを感じるロック・サウンドに仕上がっているのだが、「Mess」は2021年以降のオルタナティブ・ロックのシーンを予見している気がしてならない。
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The Stargazer Lilies // Sleeping Mask
2019年に通算4枚目のLP『Occabot』をリリースしたThe Stargazer Lilies。2020年はCOVID-19の問題で出来なくなったツアーの代わりにシングル「Sleeping Mask」をリリースした。アートワークは前作同様Robert Beattyの手によるものとなっており、サウンド面では前作の延長線上に位置する淡いスペクトルの液体に浮かんでいるかのような心地良いサイケデリック・シューゲイズ・サウンドに仕上がっている。このリリースに加えてバンドはRadioheadの「Creep」のカバーもサプラズリリースしている。
http://vesicapiscis369.com/interviews/512/
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Why Bonnie // Voice Box
米オースティンを拠点に活動する4人組ドリームポップ・バンド Why Bonnieはニューフェイスながら2018年にSports Dayからリリースされた2枚のEPで注目を集め、Fat Possumとサイン。満を持してリリースしたEP『Voice Box』はSlow Pulpにも通じる時代の感性を捉えながらも、核となるバンドの個性はしっかり表明したベスト・オブ・ドリームポップに相応しい傑作である。
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Airiel // Bloom
現在はJeremy WrennとAndrew MarrahのプロジェクトとなっているAirielが待望の新作をリリースした。また店舗での商品ポップもネオシューゲイザー、ニューゲイザー、シューゲイザーと全く定まっていなかった00年代のシューゲイズ・リバイバルのカオスを盛り上げた立役者でもあるAirielのリリースは大きな変化の時を迎えているインディ・シーンにおいて意義深い。Airielの真骨頂であるドリーミーなシューゲイズ・サウンドは今作も健在。期待を裏切らない名作である。
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MILLY // Star Thistle Blossom
Brendan Dyerによるローファイ、スロウコア、シューゲイズ・プロジェクトとしてコネチカットでスタートしたMillyだが、現在はロサンゼルスでライブバンドとして活動している。2020年にシングル『Talking Secret』でデビュー。EP『First Four Songs』を2019年にリリースしており、2020年はシングル『Star Thistle Blossom』をリリースするにとどまったが、2021年には多くの人々が知る存在となるだろう。
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VibraGun // Fade EP
And You Will Know Us By The Trail Of DeadやThe Dandy Warholsなどの影響下で生まれたシアトルのシューゲイズ・バンドVibraGunがデビューアルバム『VIBRAGUN』以来のリリースとなるシングルとEPをリリース。軸はそのまま、より深く自身のルーツへと潜りディテールに至るまで精巧に仕上げられた『Fade EP』は現時点ではまだ配信されていないためプレイリストに含める事は出来なかったが2020年シューゲイズ・シーンの重要作品である事に異論を唱えるものはいないだろう。
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Tennis System // Fuck Everything Else
各国がロックダウンし、ツアーの予定が全日程キャンセルになるなどイレギュラーな対応を求められた2020年であったが、それに伴ってリリースも一時延期や中止となる事態が各所で発生した。そんな中でリリースされたのが『Fuck Everything Else』である。このレコードはビニールにパッケージされた300枚限定生産品で、Spotifyなどの配信サービスでも聴く事は出来ず、小売店に流通もしていない。これは苦境に立たされたアーティストを支持するシューゲイズ・ファン達に対して彼らから感謝を込めた贈り物と言えるだろう。したがって、このEPを2020年のシューゲイズ・ベストから外す事は出来ないのである。タイトルトラックの「Fuck Everything Else」をはじめ、2019年に各メディアでベスト・オブ・シューゲイズに挙げられたLP『Lovesick』と並ぶ名曲揃いとなっている。
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Amuement Parks On Fire // Thankyou Violin Radiopunk
シューゲイズ・ファンであれば必ず入手すべき2020年のリリースの1つであるが、残念ながら限定88枚のレコードは既に完売している。表には手書きのナンバリング、ジャケットの裏面は購入者が日本人であれば少しドキっとするかも知れない。次のアルバムのリリースが待ち遠しいあなたはデジタルであれば購入が可能となっているので是非Bandcampから購入して欲しい。収録されている8つのトラックは当然ではあるがAmusement Parks On Fireファンは勿論の事、インディ・ロック、シューゲイズ・ファン達の期待を裏切らない素晴らしいものだった。
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Lightning Bug // The Lonely Ones
あなたはNY、ブルックリンのバンドLightning Bugが7月にFat Possum Recordsとサインしリリースしたシングル『The Lonely Ones』をもう聴いただろうか?2015年に『Floaters』、2019年に『October Song』をセルフリリースしており、2020年には3枚のシングルをリリースしている。恐らく今年中にリリースされるであろう3rdアルバムにも期待がかかる2021年要注目のバンドの1つだ。
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Outward // I will Be Something
グランジ、サイケデリックを通過し、ローファイ、ベッドルームポップ、スロウコアを洗練されたセンスで表現するケンタッキー州のアーティストOutwardの2ndフルアルバム。前作『That’s Life』も素晴らしかったが今作でもその才能を遺憾なく発揮している。
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http://vesicapiscis369.com/columns/1641/
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