Photograph: Brian Ziff
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シューゲイズ/ドリームポップ・シーンの現在
ここ日本では、まだ「シューゲイザー」と言う言葉で認知されている人も少なくないが、次世代にとっては“リバイバル”を通過し、インディーポップやポストパンク、ダークウェーブ等多ジャンルを巻き込んだ再定義が行われ、既に“ユース・カルチャー”として認知されつつあるドリームポップ、シューゲイズ。そして、そんな状況とシンクロするように2019年はシーンにとって近年稀にみる大豊作の年となった。今回は2019年~最新のリリースを含め、我々が今後注目するべき2020年のおすすめ11アーティストを選んで紹介したい。
Soccer Mommy
米テネシー州ナッシュビルのアーティストSophie Allison(ソフィー・アリソン)によるベッドルームポップ・プロジェクトSoccer Mommy。日本国内ではSnail Mail、Courtney Barnett、Mitskiと言った女性SSWの波に乗じて紹介される事が多かったが、海外ではその楽曲のセンスからドリームポップとしても人気が高い。これはシーンを切り離しても考えても、Soccer Mommyがアーティスト単体として非常に魅力的であり、Sophie Allisonと言うシンガーソングライターの実力の証明でもある。正真正銘USインディであるが、アーリー90’Sを思わせる楽曲は既に大メジャーの風格もあり、今後も幅広い層に支持されているだろう。
Dizzy
Dizzy(ディジー)はカナダ、オンタリオ州のドリームポップバンド。メンバー構成は紅一点のヴォーカルKatie MunshaとCharlie Spencer、Alex Spencer、Mackenzie Spencerの3兄弟による4ピース。
2019年に「Baby Teeth」をリリースし、Juno Awardで「Alternative Album of the Year」に輝くなど、鳴り物入りでデビューしている。
2020年最初のリリースとなるシングル「Sunflower」はバンドキャリアの中でも非常にキャッチーなポップチューンとなっていて、日本でもじわじわとインディポップ好きから注目を集めている。
Blushing
米テキサスのドリームポップバンドBlushingは2019年にセルフタイトルのデビューアルバムをWallflower RecordsとHANDS AND MOMENTからの日米同時でリリースし、米ドリームポップ/シューゲイズ勢で今最も注目を集めているバンドである。LushやCocteau Twinsを思わせる“コーラスを深くかけたディストーションサウンド”に透明感のある深いリバーブを特徴とした4AD直系のサウンドとChristinaの美声で非常に人気が高く、SXSWやLevitationなどのフェスやAudiotreeのライブストリーミングにも出演するなど話題も豊富。日本国内においてもLuby SparksがRobin Guthrieの手でリミックスされた7インチをリリースするなど、シューゲイズ・シーンにおいて“ゴシック”や“ドリームポップ”は1つのキーワードとなっており、Blushingのヒットは2020年以降のシーンにおいても重要な意味を持つだろう。
Tennis System
Los AngelesのシューゲイズバンドTennis Systemは昨年にLP『Lovesick』をリリースし、男性ボーカルが珍しい近年のシューゲイズシーンでは大ヒットとなった。こちらはジョージア州のレーベルGraveface Recordsからのリリースされており、その音楽性は時にPunkと表現されたりするが、日本人には“エモ”や“オルタナ”と言った方がしっくり来るかもしれない。my bloody valentineよろしくアームのピッチベンドを多用したギターサウンドではあるが、曲そのものは非常にロックでベースもゴリゴリ系。このありそうで無かった感覚にシューゲイザーに対して幻想的、轟音と言ったステレオタイプなイメージを持っている人はイメージを覆す事になるはず。アーリー90’sをリスペクトしつつ、懐古主義的な雰囲気は一切無い。とにかく底抜けにポジティブなエネルギーの塊を音にしているかの如く、爽快な気分になるバンド。活動はそこそこ長いバンドではあるが、一撃でシーンに風穴を開けた『Lovesick』は是非チェックして欲しい。
Linda Guilala
スペインのキュートなインディポップ・バンドLinda Guilala(リンダ・ギラーラ)。レコードショップに通うインディ・ポップ好きには馴染み深いElefant Recordsに籍を置くバンドだ。Elefant Recordsについて説明すると、Luis Calvoによって1989年にスペイン、マドリッドで設立された老舗インディー・ポップ・レーベルである。3ピース・ギターレス編成、母国語詞で歌われており、それがまたLinda Guilalaのサウンドが非常に個性的かつ魅力溢れる理由ともなっている。英Sonic Cathedralや米Test Pattern Recordsなどからシングルをリリースするなど、ワールドワイドに展開しているバンドではあるが、Elefant Recordsのレーベルカラー、C86を継承したインディー・ポップの美意識はしっかりと反映されており、Cristina QuesadaやCamera Obscura、Primitives、Alpaca Sportsと言った同レーベルアーティスト達の雰囲気が好きならば絶対にチェックして欲しいバンド。元JUNIPER MOONの2人が居る事でも知られている。
Tallies
カナダはトロントを拠点に活動する4人組インディー・ロック・バンド、Tallies。元々はThrifty Kidsと言うバンド名で活動していたが、デビューLPリリースを前に改名。サウンドはサーフポップ系のシューゲイズ/ドリームポップで、さわやかで可憐な歌声が印象的。カナダのHand Drawn Draculaとブルックリンのkanine recordsから同時リリースとなったセルフタイトルのデビューLPは各メディアで高評価となり、同郷のAlvvaysとも比較されるほど期待度も高い注目株のバンド。
Hatchie
Hatchie (ハッチー)はオーストラリア出身のアーティストHarriette Pilbeamによるソロ・プロジェクト。Babaganoujのベース・ボーカルとしては来日経験もある彼女だが、ソロ活動を開始するや否や、まさに破竹の勢いでインディーポップ・シーンに旋風を巻き起こした。デビューLPとなる「Keepsake」はHeavenly Recordingsをはじめ、Double Double Whammy、Ivy League Recordsと英米豪の各国レーベルからリリースされ、多くのインディポップ・ファンに支持された。Tamarynが切り開いたエレクトロ・ポップ、ドリームポップ、シューゲイズの新たな方向性を、持ち前のポップセンスで掘り進めた“時代の寵児”としても今後大注目のアーティスト。
Bodywash
Bodywashはカナダ、モントリオールを拠点にする、Rosie Long DecterとChris Stewardを中心としたドリームポップ・バンド。Gorilla vs BearがFat Possum傘下に設立したレーベルLuminelle Recordingsとサインし、デビューLP「Comforter」をリリース。シンセパッドやアルペジオを効果的に使った心地良い浮遊感は王道のドリームポップ/シューゲイズそのものではあるが、その骨組みは絶妙な足し引きの技巧が施された至高のインディ・ポップ。ネクスト・ジェネレーションとして要チェックのアーティストの1つ。
Pale Dian
米オースティンの3ピース・シューゲイズ/ドリームポップ・バンドPale Dian(ペール・ダイアン)は2016年にManifesto Recordsからデビューアルバム「Narrow Birth」をリリースし、以降もその独特のアートセンスで支持を集めている。同郷のドリームポップバンドBlushingや、Dais Recordsの看板アーティストDrab Majestyなどとも共演しており、ドリームポップのみならず、ゴシックやニューウェーブ、ダークウェーブと言った近年盛り上がりを見せるシーンにもシューゲイズ・シーンが波及している事を伺わせる。リードトラックとなっている「In A Day」は、まさにCocteau Twinsの再来と歓喜するゴシック・ドリームポップ。
Blankenberge
ロシアのサンプトペテルブルクのバンドBlankenberge。ブランケンベルヘと言うベルギーの同名の都市があるが、「ブランケンバーグ」と英語読みする5ピースのロシアン・シューゲイズ。キリル文字で表記しているバンドも少なくないロシアのバンドだが、曲名も全て英語表記。
2017年にデビューし、スイスに拠点を置くレーベルElusive SoundからLP『Radiogaze』をリリース。2019年リリースの『More』はカセット、CD、LPでリリースされ、フィジカルリリースは2020年1月の時点で完売状態!今のところは日本盤のリリース予定は無さそうなのでデジタルやサブスクを利用して聴くしかない。
きめの細かいノイズを透き通ったリバーブが包み込む王道のシューゲイズ・サウンドながら、軽快なビートと深めのベースのグルーヴが個性を生み出している。今後に期待のバンド。ロシアン・シューゲイズは良作が多いので、別の機会に改めて記事にする予定だ。
L I P S
イングランド、コーンウォール出身のインディー/ジャングルポップバンド L I P S。半角スペースが入るのが正式表記。デビューシングル「Apartment」がリリース直後BBC Introducingのサポートの元、BBC Radio 6で10万以上のストリームを記録。耳の早いインディ・ポップリスナーからは既に注目されていたが、Sunday Recordsより2019年にリリースした「L I P S EP」で一気に注目を集めた。どこかノスタルジックな雰囲気とRachel Anstisの素晴らしい歌声が調和した楽曲は一貫しており、今後の活躍が期待されるUKのカルテット。
最後に
今回は入門編として記事を書いた。“まずこれから聴け”と言った90年代のバンドを含めた紹介記事はどこにでも転がっているだろうと言う事で、幅広くセレクトしたつもりだ。既に、誰でも簡単に過去の情報を検索出来てしまう時代において、データベースはそれほど必要では無くなってきている。そして、言うまでも無いが、この記事のバンドは“シーンのほんの一部”にしか過ぎない。しかし、一部を切り取ったにせよ、これだけ多様化が進んでいるシューゲイズ/ドリームポップ・シーンの未来には無限の可能性がある事を感じて貰えると嬉しい。
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