VESICA PISCIS MAGAZINE
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英雄なき革命 ―カナダは如何にしてドリームポップ・シーンの中心となったか。

カルチャー感度の高い人々が注目する国、カナダ

自然と都市が共存する国。また、多くの移民が共存し、多文化主義として知られるカナダ。東部に位置するケベック州においては、フランス語が公用語となっており、標識なども全てフランス語で設置されている。
アート、ファッション、映画、音楽などあらゆるカルチャーにおいて常にトピックを供給し続けている文化大国カナダに今世界が注目している。
そして今、カナダのインディ・ミュージック・シーンから革命とも言うべき現象が起きているのである。

オーバーグラウンドなカナダのミュージック・シーン

Justin Bieber(ジャスティン・ビーバー)、The Weeknd(ザ・ウィークエンド)やDrake(ドレイク)と言った近年のカナダ出身アーティストを見て解るように、R&Bが主流である事は間違いない。そして、当然ではあるが音楽史に残るビッグネームも多く輩出しており、Neil Young(ニール・ヤング)や、Joni Mitchell(ジョニ・ミッチェル)、Ron Sexsmith(ロン・セクスミス)、00年代で言えばNickelback(ニッケルバック)やAvril Lavigne(アブリル・ラビーン)、Carly Rae Jepsen(カーリー・レイ・ジェプセン)などもカナダ出身である。

Carly Rae Jepsen – Now That I Found You

これらのアーティスト達が世界の音楽シーンに大きな影響を与えてきた事も事実ではあるが、あくまでオーバーグラウンドでの話である。
カナダにはインディ・シーンにおいても重要なアーティストが沢山いるので、これから焦点を絞って紹介していきたい。

2000年代初頭のインディ・シーンを席捲したカナダ勢

トロントを拠点とするカナダ最大のインディーレーベルArts & Craftsが世に送りだした大人数メンバー不定バンド、Broken Social SceneとそのメンバーでもあるFeistによって、それまでUS/UKインディの独壇場となっていたシーンの流れは大きく変わる事になる。
Broken Social Sceneが2005年に発表した3rdアルバム「Broken Social Scene」ではCMJチャートで1位を獲得し、初来日も果たしている。Feistは2007年にリリースした「1234」がアップル社のiPod nanoのCMに起用され話題となった。大人数バンドと言えば、ジャンルはポスト・パンクだが、エディ・スリマンが手掛けるセリーヌ初のメンズコレクションでサウンドトラックを担当したCrack Cloudもカナダである。

Broken Social Scene – 7/4 Shoreline

また、シューゲイズ、ドリームポップ方面ではStarsYoung GalaxyをリリースしていたArts & Craftsと同年設立のPaper Bag Recordsもカナダの重要インディ・レーベルの1つである。
Starsは名曲「Ageless Beauty」を収録した2007年の4thアルバム「Do You Trust Your Friends?」がヒットし、日本でもシューゲイズ・ファンの間では人気の高いバンド。

Stars – Elevator Love Letter

2000年代後半にはKlaxonsが名付けた”ニューレイヴ”が隆盛を極める。NY、ブルックリンのMGMT、ブラジルのCSSと言ったバンドや、フランスのJusticeやドイツのDigitalismなどエレクトロ・アーティストを巻き込みムーブメント化。この真っ只中にカナダから登場したのが、Last Gang RecordsCrystal Castlesである。
1stはシンセ・ウェイヴ/チップチューン、2ndではニュー・ウェーブ/ウィッチハウスとなっているが、根底にはパンク精神があり、非常にノイジーであり、ポップでもある。さらに、ファッションを含め当時のボーカリストであるAlice Glassのキャラによって構築されたアート性は現在においても唯一無二の個性として影響を落としており、ゴシックな装いと雰囲気を00年代以降”パンクバンド以外でもあり”とした点はCrystal Castlesの大きな功績と言える。
アルバム収録曲「Not In Love」をThe CureRobert Smith(ロバート・スミス)に歌わせたシングルをリリースするなど、リスペクトを伺わせる活動を展開した。
また、この曲自体がカナダのニューウェーブ ・バンドPlatinum Blondeのカバーである。

Crystal Castles – Baptism (Official Music Video)

00年代から10年代へ時代の転換期とGrimesの登場

00年代が終わりに差し掛かると、少しずつインディ・シーンにも変化が見て取れるようになる。
2008年に後に10年代の重要レーベルとなるCaptured Tracksが設立され、2009年にDum Dum GirlsのセルフタイトルEPをリリース。ミュージック・カルチャー・シーンを牽引するのは大手メディアに取って代わり、PitchforkのプロジェクトであるAltered ZonesやGorilla vs Bearに代表される”音楽ブログ”へと変化した。同時にカセットテープやレコードでのリリースが増え、7インチも多数製造された素晴らしい時代が幕を開ける。

Dum Dum Girls – "Hey Sis" (OFFICIAL LP VERSION) HQ

2009年にNo Joyが結成される。当初GluzはLAに住んでいたが、バンドの共同作業が始まるとLloydが住むモントリオールへ戻り、最初のショーを行う。その後Mexican Summerと契約を結び、デビューアルバム「Ghost Blonde」をリリースする。ノイジーで骨太なオルタナティブ・ロックではあるが、サイケデリックで妖艶な独特のドリームポップをを展開し注目を浴びた。

No Joy – Ghost Blonde (Live on KEXP)

時を同じくしてGrimesが登場。日本ではGrimesは4ADからデビューしたアーティストと思っている人も少なくないかも知れないが、1stアルバムとなる「Geidi Primes」はカナダのArbutus Recordsと英No Pain In Popからリリースされている。2011年にはD’eonとのスプリットアルバムをリリース。収録曲の「Vanessa」と「Transparency」のMV制作も手掛け、これがインディ・シーンのみならず、ファッション・カルチャーでも高評価を得て大出世作となる。
その後4ADへ移籍し「Visions」をリリース。文字通り時代のポップ・アイコンとなる。

Grimes – Vanessa

独自のインディポップ・シーンを築く礎

2013年にはAlvvaysが1stアルバムをリリースする。2010年に既にリリースしているBest CoastやDum Dum Girlsに見られる、いわゆる”ガールズ・サーフガレージ”とそれ以降に流行の兆しを見せていたジャングルポップの中間のような音楽性ながら、現代へと繋がるカナダ独自のポップ・センスが既に輝いている。
尚、同年にMen I Trustも1stアルバムをリリースしており既にこの時点で、一見繋がっていない”00年代からのバトン”は間違いなく次世代へと渡っている。これよりしばらくカナダ勢はインディ・ポップ、インディ・ロック・シーンから息をひそめる事になるが、2017年にリリースされるAlvvaysの大ヒット作「Antisocialites」が反撃の狼煙となる。
ちなみにその間、2013年にはカナダ出身のMac DeMarcoがCaptured Tracksからリリースし、ローファイ・サイケな音楽性で人気を博す事となる。カナダの火はまだ消えない。

Alvvays – Next of Kin (Official Video)

Alvvaysが2017年に「Antisocialites」をリリースすると、翌2018年からカナダから伝家の宝刀であるインディ・ポップをはじめ、ダンスミュージック、ローファイなどを加えて再定義されたドリーム・ポップの名作が”まるで示し合わせたかのように”次々生み出される。
カナダ、オンタリオ郊外で結成されたドリームポップ・バンドDizzyは「Baby Teeth」でデビュー。
2019年にはトロントを拠点に活動するTallies(元Thrifty Kids)とハミルトンを拠点に活動するLinnea Siggelkowによるドリームポップ・プロジェクトEllisが「The Fuzz」EPでデビュー。さらにモントリオール出身のシューゲイズ/ドリームポップバンドBodywashLuminelle Recordingsより「Comforter」をリリースし、シーンに猛攻を加える。
因みにMen I TrusもやはりAlvvaysと同様2017年に足並みを揃えたかのようにリリースしている。

Bodywash – Reverie (Official Audio)

ドリームポップ・シーンの中心となったカナダ

Snail MailSoccer Mommyなど同時代を生きる天才SSW達に一歩も引く事無く、独自のドリーム・ポップを展開するEllisがフルレングス・アルバム「Born Again」をFat Possum Recordsよりリリース。インディ・シーンでは既に重要アーティストとして注目を集めるまでになっている。

ellis – fall apart (official video)

Dizzyも2020年7月31日に2ndアルバム「The Sun and Her Scorch」をリリースする。アーリー90sの雰囲気溢れる「Sunflower」など完成度の高いシングルが揃っており、こちらも期待の新人バンドとして注目を集めている。

Dizzy – Sunflower (Lyric Video)

また、次世代シューゲイズ・バンドとして注目を集めている、シャンタルとキャスリーンの双子の姉妹を中心に結成された、モントリオールのPenny Divingは、2020年に2月「Big Inhale」をセルフリリースしたばかり。同郷のNo Joyの影響もあってか90sオルタナティブ・ロックの遺伝子が色濃く反映された音楽性でにわかに人気を集めており、今後の飛躍が期待される。

PENNY DIVING "Shotgun, she said" Live @MXQC2017 – Parlabande

このように多くの優秀かつ多岐に渡るスタイルのドリームポップ・バンドを多く抱えながら”カナディアン・インディ”あるいは”カナディアン・ドリームポップ”と言った括りが無いのは、中心となるアーティストが居ない事が原因では無いかと考察する。
記事に書いたように、それぞれ時代を区切れば牽引するバンドはいるのだが、DIIVの「Oshin」がそうであったように、フォロワーを多数生み、結果としてシーンとなったのとは違い、カナダのアーティスト達はそれぞれの個性を武器に自分達のフィールドで勝者となる事で世界と対等に渡り合い、継続させてきたのではないだろうか。
それが”ドリーム・ポップの中心“と認識されるまでになれば、これはある種の革命である。

先に述べた”多文化主義”と言うお国柄、カルチャーへの深いリスペクトとインディペンデントである事への誇りが彼らを個々の勝利へと導いている気がしてならない。
例えるなら”英雄なき革命“と言ったところだろう。
次世代のシーン構築の形として非常に興味深いカナダのドリームポップ・シーンを今後も注目していきたい。

Phoebe Bridgers
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