Nothing『The Great Dismal』。シューゲイザーの轟音とオルタナティブロックの力強さを融合。喪失感と美しさを同時に描き出した現代ヘヴィ・シューゲイズの代表作。
Nothingによる『The Great Dismal』は2020年にリリースされた4作目のスタジオアルバムであり、バンドがこれまで築き上げてきたヘヴィ・シューゲイズ路線をさらに洗練させた作品である。フィラデルフィア出身のNothingは、シューゲイザーとオルタナティブロック、ポストパンクの要素を独自に融合させることで、現代アメリカン・シューゲイズを代表する存在として評価を高めてきた。本作はそのキャリアにおける重要な到達点といえる。
本作のサウンドは、厚みのあるギターサウンドと重低音を活かしたダイナミックな音像によって構築されている。シューゲイザー特有の浮遊感を持ちながらも、単なるノイズの壁に留まることなく、明確なメロディと楽曲構成によって高い完成度を実現している。轟音の中に繊細な感情表現を織り込むアプローチは、Nothingというバンドの大きな魅力の一つである。
楽曲構造は過去作と比較してもさらに洗練されており、ヘヴィなギターサウンドとポップなメロディのバランスが絶妙である。リードシングルとなった「Famine Asylum」や「Say Less」では、本作が持つ重厚さと親しみやすさが同時に表現されている。また、「Bernie’s Garden」ではドリームポップ的な要素も垣間見え、アルバム全体に豊かな表情を与えている。
文脈的に見ると、『The Great Dismal』は2010年代以降のヘヴィ・シューゲイズを語る上で欠かせない作品の一つである。90年代シューゲイザーへの敬意を示しながらも、グランジやオルタナティブロックの影響を大胆に取り込み、現代的なサウンドへと昇華している。その影響は後続のNarrow HeadやTrauma Rayといったバンドにも見出すことができる。
また、本作はヘヴィなサウンドを特徴としながらも、単なる攻撃性だけではなく内省的な雰囲気を持ち合わせている。アルバム全体を通して漂う憂鬱さや喪失感は、バンドの美学を象徴する要素であり、多くのリスナーを惹きつける理由となっている。
その結果として『The Great Dismal』は、Nothingのディスコグラフィーを代表する作品であると同時に、2020年代シューゲイズを語る上でも重要な一枚となった。轟音とメロディ、重厚さと美しさを高い次元で両立させた本作は、現代ヘヴィ・シューゲイズの基準点として長く聴き継がれていくだろう。









